デジタル遺品

もう年末。

10月の末に仕事を辞めてから、あまりにいろいろ有りすぎて、気持ちは追いつかないが、そんな一年も終わる。

 

彼の住んでいた部屋は、会社が借りている部屋だった。荷物のほとんどはご家族の了解の元会社が処分することになった。

私は完全な部外者だったので、自分が持ち込んだもの以外は持ち出すのを一度は諦めた。

けれど、日にちが経つにつれて、あれもこれも全て引き取れば良かったと思ってしまった。

結局会社に無理を言って、処分する前に部屋に入っていくつかは持ち出す事が出来た。

その中に、もう何年も動かして居なかった、カビが生えて汚れたパソコンもあった。

彼の動かないパソコンは他にもあって、それは生前私がバッテリー交換をして動くようにした。

それを本人に返す前に、彼は居なくなってしまった。

そのパソコンは、直したら売っても良いよと本人に言われていたものだったので、彼が居なくなった今、自分が大事に持っていようと思った。

しかし、ご家族の意向でお渡しする事になった。思い入れがあったから手放すのは辛かったが、データだけコピーして本体はお渡しした。

これにはちょっとしたいざこざもあって、彼が自分の家族の事をあまり良く言ってなかったのはこういう事かと納得した。

 

そんな事もあって彼のパソコンは、またしても動かない汚れたパソコンだけになった。

ご家族に渡したパソコンよりも更に古いもので、10年は動かしてないような感じだ。

2台あったが、1台はACアダプターがないので、通電してみる事も出来ない。

どちらもストレージだけ取り出そうと思ったが、ACアダプターのある方はきれいに掃除をして電源を入れてみた。バッテリーは当然もう使えない。

さすがにカビだらけで汚れに汚れていたので、最初は通電する気配がなかったが、ちょっと斜めにしたり裏返してみたりしていたら電源が入った。

ノートパソコンというのは持ち歩きが基本だからか、意外と丈夫なものなのだなと感心する。

電源は入ったが、IDもパスワードもわからない。

さすがに開けられそうもない。

以前預かっていたパソコンは、本人からパスワードを聞いていたのだけれど、それとも違う。

せっかく動くのに、開けられない。

しばらくはあれこれと試してみて、無理そうならとりあえず取り出せるデータだけ取り出そうと思う。

彼にしてみたら、もう見ないでよと言いそうだけど。

でもパソコンなんて見つけたら、私が動かす努力をするだろう事は、彼も解っていたと思うけどね。