真昼の八丁堀

悲しいのに、紛らわせる為に単発の仕事を始めた。

募集はデータ入力だったはずだが行ってみたら審査業務だった。

大量に人が居て、入れ替わりの早い職場。

失敗だったが仕方ない。

気を紛らわす為に入ったのに、ストレスしかない。

単純な入力作業がやりたかったのに。

 

毎日、泣いたり立ち直ったり怒ったりしている。

何処かに行けば、彼と今度来たいと思って、もう居ないのだと思う。

面白い事があると、教えなきゃと思いながら、居ないのだと思う。

 

他人が死ぬ事も、自分が死ぬ事も、亡くなった本人にとってはそうそう悪い事とは思ってなかった。

現世は修行で、向こう側が本来の場所なのだから。

 

彼は今は辛く無いはず。

そうは思っても、わたしは辛い。

 

置いていかれる事は、子供の頃から本当に嫌だった。

彼は歳下だし、置いて行かれる事は無いと思っていた。

結婚はしないかも知れないが、おじいさんとおばあさんになっても、手を繋いで歩けると思っていた。

そんな未来は来なかった。

 

今日は、もっと長期の仕事を探す為に休暇を取った。

わたしには苦手な仕事を離れて、平日のオフィス街を歩いて、カフェチェーンでサラリーマン達に紛れてコーヒーを飲んでいるとホッとする。

何処かに、逃げ場が必要なんだろう。

あれからずっと、部屋にばかり居たから。

だからと言ってあんな向いてない仕事に就いてしまって、余計メンタルやられそう。

辞めたいが、年末までなので何とか頑張ろうかな。

単発なんだけど試用期間があるから、そこで辞めちゃうか。

そんな事も、彼に話したいと思ってしまう。

でももう居ない。